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鏡に映る自分の顔は酷いものだった。
泣いた後、拭いもせず放置した為、目の周りがパンダのようになっている。
よく見ると、ファンデーションの上に涙が流れた跡も残っていた。
よくもこんな醜い顔をして、二日酔いになるまで深酒ができたものだ。
記憶を無くすまで飲んだのなんて初めてだった。
しかも酔い潰れて知らない人の家でお世話になるなんて……。
今までの私だったらあり得ない事だった。
私の中で、何かを繋ぎ止めておく為のネジのような物が外れてしまったのだろうか……。
頭は痛いし、体は重いけれど、何故だかそんなに悪い気分ではなかった。
店主からお借りしたメイク落としを手に取ってみる。
無添加化粧品で有名なそのオイルは、ハーブの優しい香りがした。
洗面所の棚には彼女一人分のシンプルな化粧品と、洗面道具がきちんと並べられている。
布団が敷いてあった和室も、今しがた通り抜けてきた広いリビングにも、他の人の気配はない。
磨き込まれて静かに艶を放つフローリングや、年季の入ったザラザラとした壁紙からは、彼女の慎ましやかな日々の生活が伝わってくる。
それでも、長年の間繰り返されてきた昇降で中央部分の塗装が剥げ、僅かに凹んでいる階段や、大きなダイニングテーブルを見ると、もしかしたら、かつては彼女以外の人間の存在もあったのでは、と思えてくる。
でもそれは、随分と前の事かもしれない。
何となく、そんな気がしてくるのだった。
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