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豚と根菜の味噌スープご飯と捨てられたもの ⑤
今日の晩飯は何にしようか。
大通り脇の狭い歩道をのんびりと歩きながら、俺はそんな事を考えていた。
ふり仰ぐと、頭上に広がる青は、今日も何事もなかったかのように晴れ渡っている。
夕暮れにはまだ早いこの時間、通りを歩く人影もまばらで、車道を走る車の音だけが耳に騒がしい。
何となく今日は運動がてら、家から少し遠いスーパーへ行ってみる事にしたのだ。
コンビニ飯ばかりでは体に悪いだろう。
ふと正面に目をやると、通りの向こうから短めの茶色い髪の女の子がやってくるのが目に入ってきた。
女の子は重そうにねずみ色の大きな鞄を抱えている。
……いや、やっぱりいつものスーパーにした方が良いかもしれない。
何故だか急にそんな思いが脳裏をよぎる。
理由はわからないが、とりあえず今日はいつも通りの道を行った方が良い気がしてきた。
丁度直ぐそこの角を左に曲がれば、いつもの道に戻る事ができる筈だ。
俺は歩を進める足に力を入れた。
交差点の先にある直進の青信号が、チカチカと点滅を始める。
すると、女の子はねずみ色の鞄をユサユサ揺りながら、小走りになった。
俺が更に足を早めると、肩からエコバッグの持ち手が一本ずり落ちてくる。
それでも構わず俺は左手でそれを押さえながら曲がり角へと急いだ。
俺が角を曲がるのと、女の子が横断歩道を渡り終えるのとが、ほぼ同時だった。
そしてその瞬間……。
「きゃあっ」
と、女の子の小さい悲鳴が辺りに響いた。
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