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響子さんの所有しているアパートは確かに古いものだった。
築30・40年は経っているだろうか。
かつてはクリーム色だった外壁は黒くくすんでいて、階段の手すりの塗装は所々はげていた。
けれど、丁度畳替えを行なった直後だという室内はい草のいい香りが満ちていて、水回りもリフォーム済みで使い勝手は悪くなさそうだった。
雨戸を開けてみると、大きく取られたガラス窓から太陽の日差しが優しく差し込んできた。
梅干しとアサリか何だか効いてきたみたいだ。
先程までモヤのように頭を覆っていた痛みは、大分和らいでいた。
響子さんからは、「生活用品が揃うまでの間、うちの物を使って良いですよ」と言われていたけれど、彼女に甘えてばかりもいられない。
ひとまず生活できる物を今日中に揃えておかなくては。
最寄りのスーパーの場所は響子さんから訊いておいた。
どうやらここは、響ヶ町という私鉄の駅の近くらしい。
随分と歩いたように思ったけれど、前のアパートから直線距離にするとそんなにはないみたいだった。
それでも路線が違うので、翔真と駅でばったり鉢合わせ、なんて事はなさそうだ。
あの後、翔真からは夜遅くに着信が一回あったきり……。
まだあのアパートに二人はいるのだろうか……。
そんな事を考えていると、治まった筈の頭痛がぶり返してきたような気がした。
いけない、いけない。私はここで新しくやり直すんだ。
グジグジ考えるのは私の悪い癖だ……。
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