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辛口ジンジャエールと本当の自分 ⑥
「智君お待たせー」
あたしが声をかけると、黄緑色に揺れるイチョウの木の下で、モカブラウンにしたショートマッシュの髪が振り返る。
「遅くなってゴメーン。篠崎教授の講義、面白くない上に長くって、マジムカつくー」
「寝てたって、レポート提出すりゃ単位貰えるんだから、楽勝だろ?」
温かい手のひらに指を絡ませると、智君のビターチョコ色の瞳がこっちに向けられる。
「うーん……。そーゆー訳で、果音、Sweet Barのアイスが食べたい」
「げっ、まだ寒いだろ」
「智君、もう春だよ? それに果音、チョコミントの気分」
「姉貴の子供が、真冬でもスイミングの帰りにアイス食ってたけど、それと同じな。幼稚園児並み」
何だか可笑しそうにこっちを見下ろしてくる茶色い瞳を、あたしはギロリと睨み返してやった。
「幼稚園児は、口の中でパチパチゆうようなヤツとかピンクとかミドリ色のとか食べるんでーす。チョコミントはもうちょっと大人」
「前、パチパチいうヤツ食ってなかったっけ?」
あたしは智君の言葉に聞こえないふりしながら、綺麗に晴れ渡った空にぽっかりと浮かぶ白い雲を見上げた。
あーそうだ、スカイブルーソーダ味も良いかもしれない。
「そう言えば智君、今度の木曜日って空いてる?」
「んー、確かバイトもなかったから大丈夫だと思うけど」
「佑弦さんのライブに行ってみたいんだ。智君、一緒に行ってくれる?」
あたしの言葉に、智君の眉毛がぎゅっと真ん中に寄せられた。
「佑弦って、叔母さんちの新年会にいた、目つきの悪いヤツの事だろ?」
「んー、目つきが悪いっていうか、眼光鋭いって感じ?」
あたしの言葉に、何故だか智君の目つきが悪くなる。
「そんなの、いいっていう訳ないだろ? 最近やたらと叔母さんち行くけど、猫に会うとか言ってて本当は誰と会ってるんだか……」
「何で急に鈴の話が出てくるの? 智君も鈴と遊びたかったら一緒に来ればいいのに」
「一緒に行ったら困るの果音なんじゃないの? ほんっと果音ってそういうとこ子供」
何それ、何かムカつく。
「智君、子供、子供言い過ぎ。あたしとお誕生日3ヶ月しか違わないでしょ? 果音が子供なら、智君だって子供じゃん」
「誕生日がって事じゃなくて、中身がって事だろ?」
「何それ、余計にそれ傷つく! もういいよ、果音一人で行って来るから」
「はあ? そんなん余計にいいって言う訳ないだろ? 人の気持ちも考えろよ」
「考えたから一人で行くって言ってるんでしょ? 智君言ってる事が全然わかんない!」
大声で言い合ってるあたし達を周りの学生達が遠巻きに眺めてる。
知ってる顔もあるから、明日にはあたし達が喧嘩したって事みんなにバレバレになっちゃうんだろう。
けど、そんな事どうでもいいや。
智君こそ直ぐムキになって子供みたいだ。
佑弦さんならきっとそんな事言わない。
ちょっとぶっきらぼうだけど、いつも果音に優しい。
「もう良いよ! 果音、アイスはコンビニで買っておウチで食べるから」
「勝手にしろよ!」
そう言うと智君はプイっとあたしに背中を向けた。
いつの間にか繋いていたはずの手はほどけちゃってて、あたしが自分のちっちゃい手のひらをぐっと睨みつけている間に、智君は黙って視界から消えていく。
あたしがそれをぎゅっと力強く握り締めたその瞬間、鞄の中でスマホの着信音がなった。
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