梅とアサリのスープとクズ男 ②

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 ギギー、ガタン。  重い金属製の扉は必要以上に大きな音を立てた。  潤滑油も買ってきた方がいいかもしれない。  カンカンと音を立てて階段を降りて行くと、丁度一階の一番手前側の扉が開いて、中から一人の男性が出てくるところだった。  前髪を長めに下ろしたストレートの黒髪。  色白の頬に包まれた薄く小さな唇。  あごのラインはすっきりと耳元に続いていて、形の良い少し尖り気味の耳には控えめなシルバーのピアスがはめられていた。  昨日「音の食堂」にいた目つきの鋭い男性だ。 「あの……、おはようございます。203号室に越してきました木原 琴音です。よろしくお願いします」  私はそう言ってからペコリと頭を下げてみせた。  手足が細いから昨日は気が付かなかったけれど、男性は結構背が高いようだった。180センチくらいあるだろうか。向かい合ってみると、背の低い私はかなり見上げる形になる。 「……上に、住むの?」 「はい。先程、響子さんと仮契約を済ませました」 「今まで住んでいたアパートには戻らない、って事か……」  この男性も私が昨日、響子さんに喋った事を聞いていた、って事だろうか……。   「はい。ここで一人でやり直してみようかな、と思っています」  気がつくと大きな瞳が前髪の間からキラリとこちらを覗いていて、思わずドキリとする。 「……はあっ」  男性はわざとらしいほどに大きなため息をついてみせた。 「女の一人暮らしですって、まだ素性もよく知らない男に何で簡単に言っちゃうの? しかも部屋番号まで言っちゃって。昨日だって、プライベートな事ペラペラと他人に喋っちゃうし。挙げ句の果てには初めての店で酔い潰れちゃって。響子さんが悪い人じゃなかったから良かったものの、いい歳してあんた頭悪いの?」 「……へ?」  私が言葉を失っていると、彼はくるりと背中を向け、通りの向こうへすたすたと歩いて行ってしまった。  なんなのあれ?  あんな言い方しなくてもいいじゃない!  こっちはきちんと挨拶してるのに。  飄々とした様子で歩いて行く彼の背中には、黒いギターケースが背負われている。  バンドマンなんてどうせ失礼な奴ばっかりなんだろう……。    睨みつけるような視線を彼の背中を送りつけてやってから、私はハタと気づいた。  私……、すっぴんだった……。
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