辛口ジンジャエールと本当の自分 ⑨

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「……いいえ、ここには来ていないですけど……。そうなんですね……。ええ、わかりました」 「果音ちゃん、どうかしたんですか?」  深刻な表情のまま受話器を置いた響子さんに、佑弦さんが声をかける。  白い指先を頬にあてがいながら、響子さんは床の上に視線を落とした。 「隆史(たかし)さん、果音のお父さんからなんですけど、……果音、まだ家に帰っていないらしいの……」  電話機の液晶画面に目を向けると、23:10の表示。  果音ちゃんの門限は夜の10時半だ。  確かに門限を30分以上過ぎているけれど……。 「……俺、探してきます! 店に来るかもしれないから響子さんはここにいて下さい」 「……ええ」  佑弦さんは響子さんに真剣な表情を向けると、店を飛び出して行ってしまった。  響子さんはそれでも、頬に手を当てたまま固まっている。 「まだ11時過ぎですし、智樹君と遊んでてちょっと遅くなっちゃっただけじゃないですか?」  果音ちゃんのお母さんは、今怪我で入院中だ。  いつも厳しいお母さんがいないから、つい時間を忘れちゃって、という事もあり得る。  果音ちゃんだってもう21歳の大人だ。二人共、心配し過ぎなんじゃないだろうか……。 「それが、智樹君とはこの間喧嘩してしまったばかりらしいの……」 「そう……なんですか」  昨日、神社で見た二人の姿を思い出す。  その喧嘩の原因ってもしかして……。    慌てて出て行った佑弦さんも、果音ちゃんの行き先が大体わかっているのかもしれない。    でも、果音ちゃんの身の安全よりも、そんな事を思ってしまう私って、自己中なんだろうか……。  オーブンの脇にあるタイマーがピピピピっと音を立てる。  熱を放つその扉を開けてみると、私が佑弦さんの為に作った『チキンとポテトのハーブ焼き』が美味しそうにパチパチと音を立てていた。  
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