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「……いいえ、ここには来ていないですけど……。そうなんですね……。ええ、わかりました」
「果音ちゃん、どうかしたんですか?」
深刻な表情のまま受話器を置いた響子さんに、佑弦さんが声をかける。
白い指先を頬にあてがいながら、響子さんは床の上に視線を落とした。
「隆史さん、果音のお父さんからなんですけど、……果音、まだ家に帰っていないらしいの……」
電話機の液晶画面に目を向けると、23:10の表示。
果音ちゃんの門限は夜の10時半だ。
確かに門限を30分以上過ぎているけれど……。
「……俺、探してきます! 店に来るかもしれないから響子さんはここにいて下さい」
「……ええ」
佑弦さんは響子さんに真剣な表情を向けると、店を飛び出して行ってしまった。
響子さんはそれでも、頬に手を当てたまま固まっている。
「まだ11時過ぎですし、智樹君と遊んでてちょっと遅くなっちゃっただけじゃないですか?」
果音ちゃんのお母さんは、今怪我で入院中だ。
いつも厳しいお母さんがいないから、つい時間を忘れちゃって、という事もあり得る。
果音ちゃんだってもう21歳の大人だ。二人共、心配し過ぎなんじゃないだろうか……。
「それが、智樹君とはこの間喧嘩してしまったばかりらしいの……」
「そう……なんですか」
昨日、神社で見た二人の姿を思い出す。
その喧嘩の原因ってもしかして……。
慌てて出て行った佑弦さんも、果音ちゃんの行き先が大体わかっているのかもしれない。
でも、果音ちゃんの身の安全よりも、そんな事を思ってしまう私って、自己中なんだろうか……。
オーブンの脇にあるタイマーがピピピピっと音を立てる。
熱を放つその扉を開けてみると、私が佑弦さんの為に作った『チキンとポテトのハーブ焼き』が美味しそうにパチパチと音を立てていた。
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