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「良かった、みんな心配してたんだよ……」
私は果音ちゃんの肉の薄い肩に手を伸ばしかけてから、その手を止めた。
彼女は押し黙ったまま、鋭い視線を響子さんに向けている。
そして、心配していた筈の響子さんも、当の本人と目を合わせようとはせず、乾いた地面の上を見つめているだけなのだ。
何だろう……。
いつもと違う二人の様子に、私は首を捻る。
「えーと……。それじゃ、果音ちゃんも無事だった事だし、私は帰りますね」
何だか気まずい沈黙に、私はあえて明るい声を出してみせた。
すると果音ちゃんは、響子さんから視線を逸らす事なく、ピンク色の唇を開く。
「……琴音さん、もし良かったら、一緒にいてもらえませんか? このままだとあたし響子さんに酷い事言っちゃいそう」
「えっ?」
果音ちゃんが響子さんに酷い事って……。
思わず響子さんを見つめると、彼女は視線を硬いアスファルトに向けたまま口元をきゅっと引き締めてみせた。
そしてその黒い瞳をほんの僅かに揺らしてから、意を決したように女性らしいぷっくりとした唇を静かに開いた。
「……そうですね。いずれはお話ししなければならない事ですし。琴音さんのお時間がよろしければ……」
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