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アサリの中華スープと大切なもの ③
闇雲に走り回っているものだとばかり思っていたけれど、佑弦さんはちゃんと現在地を把握していたようで、程なくして私達は、さっきのライブハウスの前に歩き着いた。
「荷物取って来るから、ちょっとここで待ってて」
佑弦さんに言われて私はコクリと頷いた。
手首から白い指を離されると、急に外の空気が冷たく感じる。
未だ熱を持ったままの手首に、自分の右手をそっと添えてみる。
ドクドクと脈打つ自分の鼓動が指先に伝わってきた。
「やっぱ、お前も来い!」
後ろから急に肘を掴まれて、私はぐらりとバランスを崩す。
慌てて踏み止まろうとしたけれど、久々に全力疾走した後の私の足は思ったように動かない。
気がついた時には、目前にブルーグレーのパーカーの生地が迫っていた。
そして全身に軽い衝撃が走ったかと思うと、いつの間にか私は佑弦さんの温かい体温に包まれていた。
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