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「うわっ! ご、ごめんなさ……」
私は慌てて体を起こそうと、そのスベスベと心地良いスウェット生地に手のひらをついて……。
……て、えっ?
私の体は、逞しい腕にしっかりホールドされていて動かないのだ。
こ、これは何が起こっているんだろう……。
慌てる私の耳元に佑弦さんの熱い息がかかる。
そして近距離で発せられる低音ボイスが、鼓膜をくすぐった。
「お前……、あのクソ男とヨリを戻すつもりか?」
「へ?」
言っている意味がわからなくて、私は声の元へ顔を向けた。
目に入ってきたのは艶のある薄い唇と、白い肌。
そして黒髪の間からこちらを見下ろしているのは、その奥深くに吸い込まれていってしまいそうな黒く艶やかな瞳。
至近距離で見るその瞳の吸引力に何だか頭がクラクラしてきて、思わず私はブルーグレーのパーカーにしがみついた。
クソ男? クソ男……。ああ……。
「翔真の事?」
目の前の佑弦さんの事で頭が一杯で、翔真の事なんか忘れてた……。
「初めてあった日にお前がずっと『クソ男』って連呼してたヤツの事だよ」
「……ヨリを戻すつもりなんてないよ」
私は息をつく為に、その綺麗な顔から視線を逸らしながら何とか言葉を繋いだ。
「じゃあ、お前からアイツに連絡とった訳じゃないんだな?」
「私が?」
佑弦さんの言葉に視線を上げると、彼は黒目だけを向かいのビルの方に動かしてみせてから「自販機の陰」と小さく呟く。
「えっ?」
「振り返るな!」
驚いて振り返りそうになる私の顎を、佑弦さんの白い指が押さえ込む。
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