アサリの中華スープと大切なもの ③

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「……何で翔真がそんな所に……」 「お前、アパートからつけられてたんだろ」 「えっ!」 「さっき俺が走って逃げたの何の為だと思ってるんだ?」 「嘉成さんとケンカしてるとこ警察呼ばれてたらマズイって……」 「別に殴り合ってた訳じゃなし、あのぐらい普通だろ?」 「普通って……」  佑弦さんと嘉成さん、目立つ二人が胸ぐら掴み合ってたら、普通の人は怖いと思うけど……。 「それより、最近お前の周りをチョロチョロしてるのって『クソ男』だよな?」 「えっ? 最近って……」 「気づいてなかったのかよ。お前ホントぼーっとしてんな」  卒倒しそうなほど甘いシチュエーションでも、相変わらずな佑弦さんの毒舌に、私の頭が少しずつ冷静さを取り戻していく。 「こ、この間、コンビニのバイト帰りには会ったけど……」 「お前、ここんとこ何だか様子が変だっただろ? アイツんとこ戻ろうとしてんのかと思ってたんだけど……」 「そんなつもりはないよ……。でも、翔真が私の周りをウロついてたって……、いつ頃から?」  私の言葉に、佑弦さんは思い出すように小さく首を傾けてみせた。 「鈴が響子さんの家に迷い込んで来た時ぐらいかな?」 「そんなに前から……」  全然気がつかなかった……。 「初めは不審者なのかと思ってた。だからお前に、ちゃんとオートロックとかある部屋に引っ越せって言ったんだ」 「そんな事、言われたっけ?」  今度は私が首を傾げる番だった。 「言ったろ? あそこは仮住まいなんだから、早くセキュリティのちゃんとした部屋に引っ越せって」  全く覚えがないけど……。 「いつ?」 「確か、ゴミ捨ての時かな?」  ゴミ捨ての時?  ゴミ捨ての時言われたのは……。 「もしかして……『お前、いつまでこのアパートにいるつもりだ』ってヤツ?」 「あー、そんな感じだったかな?」 「いやいやいや、それ、全然違うじゃないですか! 大事な事伝わってない」  その言葉に、人がどれだけ悩んでたと思ってるんだろう……。  急に全身の力が抜けてゆくような気がした。 「だって、最後まで人の言葉聞かなかったのお前だろ?」 「そ、それはそうだけど……」  あ、もしかして……。    長野に行く事をわざわざ伝えてきたり、コンビニに様子を見に来てくれたり、ライブの後も打ち上げにも行かずに「音の食堂」に寄ってくれたりしたのって……、私の事を心配してくれてたって事……なのかな。  何だか心の中がくすぐったくなった気がして、私はブルーグレーのパーカーを再びぎゅっと握りしめた。 「とにかく、戻るつもりはないんだな?」  佑弦さんの言葉に私は大きく頷いてみせた。
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