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佑弦さんは私の肩を抱いたまま、ライブハウスの狭い階段を下りていく。
何だか歩き難いなって思ったけど、考えてみたら半年前、私はもっと大胆に佑弦さんの大きな胸に体を預けながら「音の食堂」の階段を上っていたんだな。
あの時は、またこんな風に佑弦さんと階段を歩く時が来るなんて思ってもみなかった。
でも、何だか無敵で幸せな気分は今もあの時も同じだ。
一枚目の扉を開けると、もうライブは終わったのだろうか、沢山の人がバーカウンターの周りで寛いでいた。
その中でも一際目立つ、スキンヘッドの男性がこちらを振り返る。
そして佑弦さんを認めると、彼は一重の瞼を更に細めてみせた。
佑弦さんは臆する事なく、嘉成さんの前に進み出ると、私の背中を軽く押した。
「荷物取ってくるから、コイツのボディーガード頼む」
「あ?」
嘉成さんのギロリとした鋭い視線が私に向けられる。
さっきの会話で悪い人じゃないとわかっていても、きゅうと心臓が縮み上がる思いがする。
佑弦さんは彼の返事も聞かず、近くにあった扉を開けると、荷物を取りに行ってしまった。
「ふーん」
嘉成さんの鋭利な視線は、値踏みするように、私の頭から始まって足先までゆっくりと通過してゆく。
「なるほど、佑弦はこういうのが好みなんだ」
「いやいや、そういう訳では……」
私は慌てて顔の前で手を振ってみせた。
「で、佑弦は戻ってくんのか?」
「あ、えーと……。佑弦さんは止まってる訳でも、イジケてる訳でもないと思います」
「ふーん」
「今は自分の音を見失っちゃっているのかもしれないけど……。佑弦さんはちゃんと佐渡 佑弦として音楽に向き合おうとしているんだと思います」
「で?」
嘉成さんのギラリとした視線が向けられる。
「えーと……。もしかしたら、佑弦さんが選ぶ道と嘉成さんが思っているものは違うのかもしれないですけど……。佑弦さんは今、人真似じゃない、自分だけの音を追求していこうとしているところなんだと思います」
「ふーん……。佑弦がちゃんと考えて出した答えなら仕方ない……。けどお前、『私とベースどっちを取るのよ』なんてクソみたいな事、佑弦に言ったら殺すかんな」
「そんな事してみろ、俺がお前を殺す」
聞き慣れた低い声に振り返ると、ギグバッグを肩にかけた佑弦さんがギロリと目を光らせながら佇んでいた。
「琴音、行くぞ」
「佑弦、ボディーガイド代、貸しだからな」
嘉成さんの言葉に佑弦さんは手を挙げて応えてみせた。
「おう、出世払いで払ってやるよ」
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