カレースープとNo.30 ③

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「今日は社食にしとく?」 「そうだねー」  同期仲間の美冬(みと)の言葉に、私はガラスの向こう側に広がる鉛色の空に目を向けた。  小さな雨粒が風に煽られて透明な窓にいくつも張り付いている。  社員食堂の味付けはいつも短調で、代わり映えしないのだけど、冷たい雨に濡れるよりは良いだろう。    けれど、考える事は皆同じらしく、広い食堂の座席はほぼ埋まっていた。 「ここ、もう終わるよ」  私達が悩んでいると、目の前にいた男性が立ち上がる。 「俺ら早食いだから」  向かい側のおじ様も席を空けてくれ、私達は丁度二人分の席を確保する事ができた。 「ありがとうございます」  私がおじ様達に譲って貰った席に腰掛けようと椅子をひいていると、一つ向こう側のテーブルに見慣れた顔がある事に気がついた。  軽くワックスで整えられたベリーショートの髪に、切長の一重瞼。濃いヒゲはいくら綺麗に剃っても彼の色白の頬に青々とした跡を残してしまう。  同じ会社なのだから、社食で見かけるなんて別に珍しい事ではなかったけれど、気になったのは、俊介の隣りで嬉しそうに喋っているのが、鈴木さんだったからだ。  鈴木さんはいつものように小首をかしげながら、顎の下で両方の手のひらをグーにして、俊介にお愛想を振り撒いている。  これだけ混んでいるのだ、たまたま隣りの席になっただけなんだろう。  現に俊介の向かいに座っているのは、彼と同じ営業一課の大久保さんだ。 「ふーん」  美冬が私と俊介の顔をゆっくり見比べてから、何だか意味深な笑顔を作ってみせた。 「えっ? 何? 何でもないよ!」  慌ててそう言う私に、美冬は大きな瞳をキラキラさせながら、私の顔を覗き込んでくる。 「へー、そういう事か」 「本当に何でもないってば……」
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