カレースープとNo.30 ③

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「田所、ちょっといいか?」  業務部に戻ろうとしたところに、後ろから声をかけてきたのは、バーコード頭の野間部長だった。 「はい」 「近いうちに業務二課の仕事を田所に任せたいと思っているんだが……」 「は、はいっ。ありがとうございます!」  私はそう言って深々と頭を下げてみせた。 「田所は勤務態度も良いし、若い者達の指導にも長けている。だが、あれだな、その……近いうちに仕事を辞める予定とかはないかな?」  部長がそう言って頭に手をやると、綺麗に整えられていたバーコードが一本ズレた。  部長の言いたい事はわかっている。  もうすぐ30歳。そういう年頃だ……。 「大丈夫です。辞める予定はありません」 「そうか、それは良かった」  きっぱり言い切った私に向けられた部長の笑顔に、どこか憐れみの色が浮かんでいたような気がしたのは、私の被害妄想だろうか……。
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