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「ほんっと、あいつムカつく!」
私はそう言いながらビールジョッキを傾けた。
「いるいるー。そういう女子。ウチの部署にもいるよ。男子の前だと態度が全然違うのー」
美冬も琥珀色の液体を喉に流し込みながら、大きく頷いた。
彼女は3年前に結婚しているけれど、理解ある旦那さんのお陰で、こうして時々アルコールを傾けながらストレスを発散させて貰う事ができているのだ。
美冬は名前通り、黒髪の美しい色白美人だ。
同期の中でも一番人気で、結婚すると報告した時は、多くの男性社員がため息をついたものだ。
それでも、30を目の前にして未だ独身の私にも上から目線で語る事もなく、いつでも自然体の彼女は女の私からみても、魅力的に映った。
「……で、俊介とはどうなってるのかな?」
美冬はふわふわ白ニットの腕を組みながら、笑顔をみせた。
「何言ってんの? 俊介とは今だって友達で……」
私が慌てて答えると、美冬の吸い込まれるような黒い瞳が覗き込んでくる。
確かに俊介の事は好きだけど、それが友人としてなのか、恋愛感情なのか……。
いや、今まで培ってきた友情を壊してまで突き進みたいものなのか、仕事のチャンスを諦めてまで手に入れたいものなのか……、わからないのだ。
「好き」という感情だけでは乗り越えられない壁、それが30という数字なのだろうか……。
きっと鈴木さんなら、躊躇う事なく仕事を辞めて俊介について行くのだろう。
「穂花可愛いなぁ。いいなぁ、そういうの。悩め悩め。若いうちは大いに悩みなさい」
「美冬だって同い年じゃん」
「私はもうお誕生日迎えてるから、お姉さんだよ」
たった数ヶ月の違い……。
たった数日でも、20代と30代の間には目に見えない大きな溝があるような気がする。
それを簡単に飛び越えていった美冬はますます眩しく見える。
「……多分そういうのも、アリだと思うよ」
美冬はそう言うと、ふわりと花のような笑顔をみせた。
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