カレースープとNo.30 ④

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 私は泡の立つビールを受け取ると、立ち話をしている人達の間に移動した。  元々ライブを見に来た訳ではないので、後ろの方の空いている席でゆっくり聴いていても良かったのだけど、何となくステージに置かれている楽器が気になったのだ。  ステージといっても床が黒く塗られているだけで、客席との境に特に段差も設けられていない。  その黒い床の上に腰の高さ程の台が一つ。  そしてその上に乗せられている物は……。  どう見ても、昔お婆ちゃんが弾いていたのと同じ……大正琴に見えた。  お婆ちゃんが赤い座布団に座りながら、調子っ外れの「さくらさくら」を弾いていたのを思い出す。  けれど、目の前にあるメタリックレッドに輝くボディは黒いケーブルに繋がっていて、その横にはツマミがついた四角い機械がいくつか置かれている。  目の前に、シルバーグレイの髪をふわりとアップにし、エスニック柄のワンピに身を包んだ女性が現れる。  この人が井上さんなのだろうか。  彼女は軽く機材を確認したかと思うと、店主の方を見て頷いた。  すると、フロアの明かりが静かに落とされる。
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