梅とアサリのスープとクズ男 ①

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 シノハラフードカンパニー。 「美味しさと安全を手軽に皆様の食卓へ」  特別栽培農産物を使用しているのがの手作り惣菜を店頭販売しているデリカテッセンだ。  特別栽培農産物とは節減対象農薬の使用回数が従来に比べて5割以下、使用される化学肥料の窒素成分量が5割以下のものを言う。  ちょっと前までは減農薬野菜とか言われていた物だ。  農薬を減らしている分、安定供給が難しく、我が社は数軒の農家と直接契約を交わす事によって、商品の品質と価格を維持している。  地産地消にもこだわっていて、直接、契約農家から買い付ける事によって、安価で安心な商品を皆様の食卓にお届けする事ができるのだ。 「持続可能な消費を通じて地元の農業に貢献する」のが我が社の理念であり、就活中の私はそこに大いに惚れ込み、苦労の末、やっと内定を取りつけた。  けれど大きく膨らんでいた私の初々しい期待はあっという間に打ち砕かれた。  研修中に配属された店舗では、パート従業員達は毎日サービス残業が続き、ロス商品の半強制的な自主買取りが横行していた。  それでも唯一の社員である店長が、30連勤等という過労死レベルの超ハードスケジュールをこなしているのを目の当たりにすると、現場の従業員達は文句も言えず、ただ社畜と化していくばかりだった。  本社勤務になっても、毎週水曜日の公休日にも、休まず営業している店舗や農家さんから呼び出される事は度々で、それでも現場店舗に比べると、夏休みや正月休みがもらえるだけありがたい、と私は自分に言い聞かせながら日々の業務に忙殺されていった。  今回ミスを犯した前任者は、過労とストレスで突然会社に来なくなり、今も音信不通になっている。  
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