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カレースープとNo.30 ⑤
「急に来てごめん。やっぱり最後は顔見とかなきゃ、と思って」
オフィスの前の通りまで出てきてくれた俊介の白い息を、ビルの間を吹き抜けてくる冷たい風が吹き飛ばしていく。
「いや、俺も会いたかったから……。けど、穂花、明日も仕事だろ?」
「うん。でも、前は朝まで飲み明かしたりしたじゃん」
「相変わらずだなぁ、穂花は……」
俊介は少しヒゲが伸びて青々とし始めた頬を緩めながら、ふふふっと優しく笑った。
どこのオフィスも、さすがにフロアについている明かりは数えるほどで、ポツポツと残る明かりが、鈴木さんのダイヤモンドのように見える。
「……指輪」
「えっ? どうして知ってるの?」
私が思わずポロリと呟いた言葉に、俊介が細い目を見開いてみせた。
やっぱり、俊介は鈴木さんに指輪を送ったんだ……。
私はアスファルトの地面に小さく白い息を吐く。
それが俊介の選んだ答えなら仕方がない。
多分俊介は鈴木さんの全てをわかった上で、決めた事なんだろう。彼は見た目だけで選んだりなんかしない筈だ。
俊介は短髪の頭をポリポリとかいてから、街路灯の照らす地面の上に静かに視線を落としてゆく。
そして彼の大きな手のひらが、紺色のズボンのポケットに入れられると、白く小さな包みを取り出した。
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