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「……響子さんの旦那さんは、15年前に事故で亡くなったんだよ」
「そう……なんだ」
そうか、あの家に漂っていた「かつて一緒に暮らしていた人」の気配は、旦那さんのものだったのか。
響子さんはあの広い家で、旦那さんとの思い出を抱きしめながら、ひっそりと暮らしているのだ。
何となく、響子さんと旦那さんは本当に愛し合っていたのだな、と思った。
確かにそれは安易に人に言うべき事ではないし、そしてまた軽々しく聞くべき事でもなかった、と思った。
けれど、佑弦さんの瞳は何だかキラキラと輝いているように見えた。
「……実はさ、その旦那さんというのが、あの瀬尾 奏一郎さんなんだよ」
「へえ、そうなんだ」
私のフラットな反応に、佑弦さんは大きな目を更に見開いてみせた。
「……って、まさかお前、あの伝説のバンドsound or noiseのギタボ、瀬尾 奏一郎さんを知らないとか言うんじゃないだろうな?」
「……知らない」
「お前、それ無知過ぎんだろ」
「……」
そんな事言ったって、私は元々バンドとか良くわからないし、15年も前の事だ、知らなくても仕方がないと思う。
「いいか、sound or noiseってのはなあ……」
それから佑弦さんは、陶器のような頬をほんのり赤く染めながら、いかに伝説のロックバンドsound or noiseが素晴らしかったか、ギタリスト瀬尾 奏一郎さんがどれだけ格好よかったか、を力説してくれた。
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