チキンライスとモブ男 ①

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「……響子さんの旦那さんは、15年前に事故で亡くなったんだよ」   「そう……なんだ」  そうか、あの家に漂っていた「かつて一緒に暮らしていた人」の気配は、旦那さんのものだったのか。  響子さんはあの広い家で、旦那さんとの思い出を抱きしめながら、ひっそりと暮らしているのだ。  何となく、響子さんと旦那さんは本当に愛し合っていたのだな、と思った。  確かにそれは安易に人に言うべき事ではないし、そしてまた軽々しく聞くべき事でもなかった、と思った。  けれど、佑弦さんの瞳は何だかキラキラと輝いているように見えた。 「……実はさ、その旦那さんというのが、瀬尾 奏一郎(せのお そういちろう)さんなんだよ」 「へえ、そうなんだ」  私のフラットな反応に、佑弦さんは大きな目を更に見開いてみせた。 「……って、まさかお前、あの伝説のバンドsound or noiseのギタボ、瀬尾 奏一郎さんを知らないとか言うんじゃないだろうな?」 「……知らない」   「お前、それ無知過ぎんだろ」 「……」  そんな事言ったって、私は元々バンドとか良くわからないし、15年も前の事だ、知らなくても仕方がないと思う。 「いいか、sound or noiseってのはなあ……」  それから佑弦さんは、陶器のような頬をほんのり赤く染めながら、いかに伝説のロックバンドsound or noiseが素晴らしかったか、ギタリスト瀬尾 奏一郎さんがどれだけ格好よかったか、を力説してくれた。
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