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「そう言えば、佑弦さんはお正月、実家に帰ったりしないんですか?」
そう言ってから私はしまった、と思った。
「金が無いから……。そう言うお前こそ帰らないのか?」
「まあ……」
「どうせ『親に仕事辞める事言い出しにくい』とかなんだろ?」
「う……」
どうして佑弦さんはいつも言いにくい事をずけずけと言ってくるんだろう……。
でも核心をついているのも事実だった。
私はまだ両親に仕事を辞める事を伝えていない。
しかも母親なんかは私が同棲していた事を知っているので、「そろそろ結婚を……」なんて考えているようなのだ。
3年付き合っていた男と別れて、仕事も辞めるなんてとても言い出せない。
それにしても……。
私は佑弦さんの端正な横顔を見つめた。
多分、佑弦さんの年の頃は私と同じくらいだろう。
私と同じく「そろそろ落ち着きなさい」と言われるお年頃な筈だ。
今はバンドはやっていない、って言ってたけど……。
特にバンドとして何かを目指すという訳でもなく、就職する訳でもなく、アルバイト生活を続けているなんて、佑弦さんは人を馬鹿にしたような事を言うけれど、意外といい加減な人なのかもしれない……。
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