チキンライスとモブ男 ①

6/6

126人が本棚に入れています
本棚に追加
/167ページ
 通りを抜けてくる冷たい風が、シャッターの下りた店先に、カラカラに乾いた落ち葉を掃き集めては消えていく。  肌を突き刺してくる強い風に、思わず亀のように首をすくめて歩いていると、何やら頬の周りにふわりと温かい物を感じて足を止めた。 「貸してやるよ」  ワンテンポ遅れて足を止めた佑弦さんのダウンの首元からは、サックスブルーのカットソーが覗いている。 「えっ、でも……」  私は自分の肩にかけられたグレーのマフラーに手をやった。 「マフラーくらい買えよ。1月・2月はまだ寒いぞ」  頬に触れる柔らかな感触に少し躊躇っていると、北からの風が、長く下ろした私の髪をぶわりと巻き上げていった。  私は再び首をめり込ませると、そそくさとマフラーを自分の首に巻き付けた。 「……ありがとう」 「……」  佑弦さんは呆れたようにこちらを見下ろしている。  ふわりと柔らかいウールの毛織物には、佑弦さんの温もりがまだほんのりと残っていた。  そう言えばさっきまで佑弦さんは、これをまで(うず)めるようにしていて巻きつけていたっけ……。  何だか佑弦さんの唇が直ぐ目の前にあるような気がして、私は一人頬を染めた。 「……えーと、えーと……。あ、そう言えば、上のお店、潰れちゃったんですね……」  私は赤くなった頬を隠す為、マフラーの中に更に自分の顔を沈ませた。 「ああ、そうみたいだな」  佑弦さんは人通りもまばらな街並みに視線を向けると、興味なさそうにそう呟いた。
/167ページ

最初のコメントを投稿しよう!

126人が本棚に入れています
本棚に追加