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通りを抜けてくる冷たい風が、シャッターの下りた店先に、カラカラに乾いた落ち葉を掃き集めては消えていく。
肌を突き刺してくる強い風に、思わず亀のように首をすくめて歩いていると、何やら頬の周りにふわりと温かい物を感じて足を止めた。
「貸してやるよ」
ワンテンポ遅れて足を止めた佑弦さんのダウンの首元からは、サックスブルーのカットソーが覗いている。
「えっ、でも……」
私は自分の肩にかけられたグレーのマフラーに手をやった。
「マフラーくらい買えよ。1月・2月はまだ寒いぞ」
頬に触れる柔らかな感触に少し躊躇っていると、北からの風が、長く下ろした私の髪をぶわりと巻き上げていった。
私は再び首をめり込ませると、そそくさとマフラーを自分の首に巻き付けた。
「……ありがとう」
「……」
佑弦さんは呆れたようにこちらを見下ろしている。
ふわりと柔らかいウールの毛織物には、佑弦さんの温もりがまだほんのりと残っていた。
そう言えばさっきまで佑弦さんは、これを口元まで埋めるようにしていて巻きつけていたっけ……。
何だか佑弦さんの唇が直ぐ目の前にあるような気がして、私は一人頬を染めた。
「……えーと、えーと……。あ、そう言えば、上のお店、潰れちゃったんですね……」
私は赤くなった頬を隠す為、マフラーの中に更に自分の顔を沈ませた。
「ああ、そうみたいだな」
佑弦さんは人通りもまばらな街並みに視線を向けると、興味なさそうにそう呟いた。
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