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チキンライスとモブ男 ②
店先で風に寂しく揺れる張り紙を目の前にしながら、僕は途方に暮れていた。
そういえば年末に来た時にも、自動扉の前に何か張られていたような気がする。
けれど僕は「しみず」さんの事で頭が一杯だったのだ。
僕はゆっくりと後ろのコンビニを振り返る。
ガラス越しに彼女が笑顔を振り撒きながら、甲斐甲斐しく働く姿が見てとれた。
僕は自分の左手にぶら下がる白いコンビニ袋に目をやった。
中には明日の朝ごはん用のパンとサラダ、後は晩酌用の缶チューハイが入っている。
彼女の白く細っそりとした指が、手際良く僕の朝ごはんとチューハイをスキャンしていくのを思い出す。
そして……。
僕はつい先程の事を思い出してニヤニヤしてしまう。
そう、彼女がいつものように笑顔で僕にコンビニ袋を手渡そうとした時、彼女の白魚のような指がほんの一瞬だけ、僕の手のひらに当たったのだ。
彼女は何事もなかったかのように、「ありがとうございます」と涼やかな声で微笑みかけてくれた。
これは年明け早々、縁起がいい。
僕は天にも昇る心地でコンビニを後にした。
なのに……だ。
僕は目の前にある張り紙を睨みつけた。
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