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たっぷりのケチャップで炒め上げたチキンライス。
それが僕の大好物だ。
フライパンで煮詰めた香ばしいケチャップの香りがたまらない。
カリッと焼かれた鶏肉と、ふんわりとした白米をトマトの旨味が凝縮されたケチャップが包み込む。
最後にバターを加える事で、濃厚でコクのある味わいに仕上がるのだ。
実家の母親がよく作ってくれていた、ケチャップたっぷりのチキンライスを思い出す。
「カフェペンギンの家」のチキンライスは、多分冷凍の物をそのまま炒めただけだろう。
バターの香りもあまりしない。
けれど、卵の乗ったオムライスを出すお店は沢山あるけれど、そのままのチキンライスを食べられるお店は、そんなにないのだ。
「しみず」さんが働く姿を眺めながら、懐かしい味わいのチキンライスを頬張る。それが日々の癒しだったのに……。
ため息をつきながら足元に目をやると、小さな黒板の様な物が目に入ってきた。
『スープご飯の店「音の食堂」営業中』
スープご飯なんて女の子が食べるような物、正直あまりそそられない。
けれど、「しみず」さんが仕事を終えるまで時間をどこかで潰さなければならないのだ。
さすがに僕もお腹が空いてきていたし、コンビニの中が見渡せなくて、チキンライスが食べられないのなら、結局どこも同じだ。
僕は小さく白い息を吐き出すと、黒板の直ぐ脇にある薄暗い階段に足を向けた。
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