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「本日はお聴き頂きまして、ありがとうございます。ライブはこれにて終了でございます。この後も『音の食堂』はバータイムとして営業しております。温かいスープご飯もご用意致しておりますので、どうぞごゆっくりお楽しみ下さい」
響子さんはそう告げると、再び客席に向かって静かに頭を下げてみせた。
僕は前にいた女の子達を押し退けると、ステージで銀の皿を片付けている響子さんに近づいていく。
「響子さん、凄かったっす! 何か憑依してるのかと思いました」
「……それは……、喜んでいいのかしら?」
響子さんは微妙な表情を浮かべてみせる。
「もちろんです! 格好良かったっす」
「本当に、響子さん格好良くってビックリしました!」
いつの間にか隣りに来ていたリッスーも興奮気味にそう言った。
「琴音さん、どうもありがとう。店番してくれる人がいなくて、今まではなかなか自分の店でライブができなかったんですけど、今度からは佑弦君と琴音さんの二人がいるからステージに立てるわ」
響子さんはそう言って優しい笑顔を浮かべた。
「そうなんですね。僕、また観に来ますよ。すっかり響子さんのファンになっちゃいましたよ」
「あら、ありがとう」
「私、てっきり響子さんはギターを弾くんだと思ってました」
「ギターは趣味で弾く程度よ……」
響子さんはリッスーの言葉に優しく微笑んで見せてから、ステージの上に静かに視線を落とした。
黒く塗られた床の塗装は所々剥げ、使用されている木材の地色が顔を覗かせている。
「……ギターは亡くなった主人にちょっと教わっただけだから……」
「そう……、なんですか」
リッスーも、響子さんに合わせるようにして黒い床の上にゆっくりと視線を向ける。
そうか、響子さんの旦那さんは亡くなってしまったのか……。
それならば……。
僕は思い切って口を開いた。
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