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「ふーっ」
慣れていた筈の薄暗い階段を、僕はやっとの事で登りきると大きく息を吐いた。
冷んやりとした外気が火照った僕の頬を撫でていく。
思ったよりも僕は酔っ払っているみたいだ。
通りに出たところで足がもつれて、思わず潰れたカフェの壁に手をついてしまった。
アルコールで血の巡りの良くなった手のひらに、冷やりとしたガラスの無機質な感触が伝わってくる。
その向こう側にいくら目を凝らしてみても、そこに広がっているのは、ただの薄暗い闇だけだ。
僕が「しみず」さんをこのガラス越しに眺めていたのが、何だか随分と前の事のような気がする……。
今日、僕は生まれて初めて女の子に告白し、そして一日に2回も振られてしまった……。
もちろん凄くショックだ……。
けれど、どこか吹っ切れたような、清々しい気さえしているのは、何故だろう……。
僕はふらふらと歩道の上を歩き出した……。
真っ直ぐに足を向けているつもりなのに、体重を乗せるとどうしても体が傾いてしまう。
向こうから20歳ぐらいだろうか——スウェット姿の若い女の子がやって来るのが見えた。
でももう僕は緊張なんかしない。
それよりも自分の足が言うことを聞かない事の方が問題だった。
彼女は、ふらふら千鳥足で歩く僕なんか目に入らないように、険しい眼差しを真正面に向けたままこちらに歩いてくる。
一生懸命踏ん張ったつもりだったけれど、やっぱり右足は体重を支えきれずに、僕の体はふらりと歩道の真ん中までもつれ出てしまう。
けれど女の子は僕を避けるでもなく、歩くスピードを緩めるでもなくそのまま進んでくるので、お互いの肩がドンっとぶつかってしまった。
ずっと体重が重い筈の僕の体が、ふらりとよろめいて近くにあった不動産屋の壁にもたれかかる。
「すみません!」
僕が慌てて振り返っても、彼女は何事もなかったかのように真っ直ぐ前を見つめたままズンズンと歩いていってしまった。
すれ違いざまに見えた奥二重の腫れぼったい瞼と、眉毛が真ん中辺りにしかないマロ眉が、何だか妖怪のように見えて、僕はビクリと体を震わせる。
傷んで毛先の方だけ金髪のようになった長い髪を夜風にサラリとなびかせながら、彼女は駅前通りの方に消えて行った。
「……やっぱり女子は怖いな」
再びふらりとした足取りで歩き出しながら、僕は一人そう呟いた。
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