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ココナッツミルクスープと世界の中心 ①
「莉緒、ずっと部屋の中にこもってばかりいても体に良くないから、今の内に少し外の空気でも吸ってきたら?」
後ろ手にそっと引き戸を閉めたあたしに声をかけてきたのは、キッチンで洗い物をしていたママだ。
「う……ん」
あたしはどっちともとれない声を返す。
寝不足で頭がぼうっとする。
眠いのに、布団に入ってもなかなか眠りにつく事ができなくて、気がつくと時間がきてしまい、起こされる……。
最近、ずっとそれの繰り返しだった。
洗い物の手を止めると、ママはあたしとそっくりな黒い瞳を何か言いたげな様子でこっちに向けてくる。
「……じゃ、行ってくる」
正直、出かけても出かけなくてもどっちでも良かったんだけど、あたしは何となくママの視線から逃れるように、リビングの扉を開けてのそりと薄暗い玄関に足を向けた。
シューズボックスから自分のスニーカーを取り出すと、そのままポンっと玄関のタイルの上へ放る。
薄汚れたスニーカーに素足をねじ込んでいると、何だか嫌なものが視界を掠めたような気がして、あたしはふいっと顔を上げた。
寝起きのボサボサ髪と、腫れぼったい奥二重の瞼にまろ眉。
何だか妖怪みたい……。
玄関の姿見に映っている化粧っ気全くなしの自分の姿を見て、あたしはため息をついた。
部屋着にしているグレーのスウェットパンツに、ささっと羽織ってきたのは一昨年買った色褪せたピンクのパーカーだ。
暫くヘアサロンに行っていない髪は毛先が傷んで変色している。
けど……、どうでもいいや……。
どうせ「世界は自分を中心に回ってる」と思っている人達だけで世の中は回ってるんだ。
あたしは玄関のドアをギィと開けると、世界の中心に向かってギロリと鋭い視線を向けてみせた。
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