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ココナッツミルクスープと世界の中心 ③
「超可愛いー」
「マジ可愛いー」
瑠璃と春香の黄色い声があたしの狭い部屋の中に響く。
あたしは自分のベッドの上であぐらをかきながら、久しぶりに穏やかな気持ちで彼女達に笑顔を向けた。
あたしは今日もスウェットにまろ眉だけど、気にしない。
瑠璃達とはお互いの家に泊まりあったり、旅行に行ったりしてるから、みんなすっぴん顔は見慣れているのだ。
「でさー、この間BIONのDJロクさんに声かけられて打ち上げに行ったんだよね……」
「へえ……」
あたしが単調な声でそう返すと、隣りで寛いでいた瑠璃が春香を肘で突いた。
「あー、ごめん」
あたしはこのところクラブに遊びに行くどころか、買い物にさえ行っていない。
あたしだってちょっと前までは男の子に良く声をかけられたのに……。
「別に良いよ。DJロクさんは好みじゃないし」
「そうだよね。莉緒はワンコ系が好み……」
「瑠璃のバカ……」
今度は瑠璃が春香に突かれる。
「べ、別に浩人の事言ってる訳じゃなくて……」
「バカ、本当、瑠璃バカじゃないの! 何で浩人の事……」
わかってる。二人は一生懸命あたしに気を遣ってくれているんだ。
けど、あたしはもうそっち側にはいない……。
見慣れていた筈の二人の小競り合いが、何だか凄く遠くに思えた。
それは、彼女達の淡く春の色に光る指先だとか、盛り過ぎなほどに盛られた睫毛に彩られた目元が、キラキラと輝いていて、あたしにはちょっと眩しかったからなんだろう……。
あたしは自分自身にそう言い聞かせてみせた。
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