126人が本棚に入れています
本棚に追加
確かこの辺にあった筈……。
すっかり日が落ちて暗くなった街並みを、あたしはキョロキョロと見回した。
響ヶ町の駅から歩いて5分位。ちょうど駅前繁華街の外れ辺りに、適度に田舎くさく、適度にゴチャついたカフェがあった筈。
そう、この辺りに……。
あたしは、そこに広がっている光景に思わず呆然と立ち尽くしてしまった。
いつもガチャガチャとにぎやかな光景を放っていた筈のガラスの向こう側には……、何もなかったのだ。
今はただ、無機質な薄暗い空間が広がっているばかり。
とてもついこの間まで、雑多な人達が出入りする飲食店が入っていたとは思えないほど、しんと静まり返っている。
いや、ついこの間まで、ではないのかな……。
ガラス扉の前に貼られている「閉店のお知らせ」は半分千切れて薄っすらと黄ばんでいる。
そういえばこの間の散歩の時も、この辺りが何だか静かな気がしたんだ。
けど、その時は歩くのが目的だったから、周りの事なんて気にも留めていなかったのだ。
別にこのチェーン店が特別に気に入っていた訳でもない。
ただ単に目的地が決まっていた方が、私自身、家を出るキッカケになるかと思っただけだった。
けど、どうしてだろう、知らない間に蓄積されたガラス扉の埃だとか、雨風に晒されてクルリと曲がったお知らせの紙とかが、あたしの心をザワザワと小さく揺さぶるのだ。
あたしの知らないところで、どんどんと世界は変化していく。
世界の中心から外されたあたしの事なんて、誰も振り返る事もなく、そして何事もなかったかのように世の中は回っていくのだ。
最初のコメントを投稿しよう!