ココナッツミルクスープと世界の中心 ③

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 気がつくと、さっきまでグラスを片手に談笑していた人達は、扉の脇にあるステージの前に集まっていた。   ふっとフロアの灯りが静かに落とされる。  周りからパチパチと小さな拍手がおこった。  ああ、ライブが始まるのか……。  あたしはぼんやりとそんな事を考えながら、椅子に座ったまま体だけステージの方へ向ける。  やがて聴こえてきたのは、何だか泣いているような女性の歌声だった。  けれど聴衆の向こう側にチラリと見えるのは、二人の男性の頭だけ。  よっぽど背の低い女性なのか、それとも座っているのか。  浩人のせいで、ステージに登場するところは全然見ていなかったから、どんなボーカリストがいるのか、ここからだと良くわからない。  それに、一生懸命耳をすませてみても、女性が何と歌っているのかも聞き取れないのだ。  一体何語なのか、そもそも歌詞があるのかすらも……。  でも、その声はとても切なくて、胸の奥を大きな手でガシッと鷲掴みにされるみたいだ。  ジクリジクリと胸が痛む。  それは歌っているのではなくて、本当は泣いているのかもしれない……。  本当にそう思えてくるような声だった。  あたしはスツールから少し腰を浮かせるようにしながら、黒い人影の間からステージを覗いてみる。  奥にいる若い男性は、多分ベースか何かを弾いているんだろう。  手前にいる男性は、……何かを演奏している、というよりも、目の前で両手を動かして指揮者のような動き。  だとすると、女性はこの男性の手前にうずくまるようにして座っている事になる。  そんな格好でこんな伸びやかな声が出せるんだろうか……。  もしかしたら、女性の声は予め録音されていたものなのかもしれない……。  そうも思ったけど、その歌声は何だかやけに生々しくて、何ていうか、それが放つ空気感というものが今正にここに存在している、そんな感じがするんだ。  それにベースの男も録音されたものに合わせている、というふうでもなく、物哀しくも伸びやかに歌い上げられる声とのセッションを愉しんでいるように聞こえる。  
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