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ココナッツミルクスープと世界の中心 ④
ケイさんに出会ったのは、瑠璃達と初めてクラブBIONに行った時だった。
勝手がわからずにキョロキョロと辺りを見回しているあたし達に最初に声をかけてくれたのは、ナンパ男なんかじゃなくて、黒いミニスカから見事な美脚を覗かせているケイさん。
彼女はBIONの従業員じゃないか、ってぐらい知り合いが多くて、男にも女にも人気があった。
何もわからないあたし達に「アイツはヤバいからついていかない方が良い」とか色々教えてくれたのも彼女だった。
二人の子持ちのシングルらしかったけど、どうしてそうなったのかだとか、歳がいくつだとか、それどころか本当の名前すらも誰もわかっていなかった。
けど、そんな事どうでも良かった。
あの頃のあたし達は目の前にある事が全てだったから。
ケイさんがいい人で、あたし達も今が楽しければそれで良かった。
「これ使えば楽になるんだ」
トイレに行った時「ナイショだよ」って言いながらあたしだけにそっと見せてくれた。
そう言った時のケイさんの瞳はいつものようにキラキラと魅惑的に輝いているものじゃなく、カラコンを外した後の瞳みたいに黒々とした深い色で、何だかその向こうに色々と重たいものを背負っている本当のケイさんの姿が透けて見えるように思えた。
「ふーん、そうなんだ」
けど、その時あたしは特に気に留めるでもなくそう答えたんだ。
それをいつか自分が使う事になるとは思ってもいなかったから……。
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