ココナッツミルクスープと世界の中心 ④

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「……大変なのは今だけですから」  全身にたっぷりと脂肪を蓄えた中年の女性はそう言ってニコリと笑った。  その言葉はもう聞き飽きた。  今までもいろんな人にそう声をかけられた。  そして大体そう言う人は決まって優しそうな笑顔を浮かべているんだ。  あたしが聞きたい言葉はそんなんじゃない。  そう思っても、彼女達の悪気のなさそうな笑顔を見ると、何故かあたしはそれ以上言葉を続ける事ができなくなってしまう。 「ここっと」に集まった女性達は、みんなナチュラルメイクで、飾り気のないゆるりとしたTシャツにジーンズなんかを合わせていた。  久しぶりの外出に気合いを入れまくったフルメイクのあたしの姿は、明らかにその場から浮いていて、当然、そんなあたしに声をかけてくる人なんて誰もいなかった。  ここにも居場所はないんだな、ってその時あたしは思ったんだ。 「あ、そうなんですね。ウチの旦那は……」  初対面であろう彼女達は、それぞれに気の合いそうな相手を見つけては、柔らかな日の光が差し込むその部屋で、ぎこちなくも楽しそうに言葉を交わしあっていた。  被害妄想だとわかっているけど、彼女達の穏やかな笑い声が、浩人(おとこ)に捨てられたあたしを密かに馬鹿にしてるんじゃないか、あたしにはそんな風に聞こえてしかたなかったんだ……。     大きな音に包まれていた直後でボワンとなっている耳に、どうしてだか「ここっと」にいた女性達の楽しげな声がこだましている気がした。  あたしはライブバーのトイレで一人、着古したロンTの裾をまくり上げた。    見下ろすと、あたしの体は弛んだ皮膚の上に脂肪がつき始め、見苦しい姿になっている。  今までずっと体型には気を使ってきたし、ボディケア用品にも結構お金を使ってきた筈なのに……。 「くうっ……」  苦痛と情けなさで思わずうめき声が出てしまう。  あたしは色気も何もないベージュ色の下着を捲り上げると、アレを素肌にあてがった。
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