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自分の胸に、搾乳器の先についている透明なシリコンカップの部分を充てがう。
けれど、パンパンに張ってしまったあたしの胸からは上手く搾乳ができない。
仕方なく、あたしは手搾りに切り替える。
「……いいっ!」
激痛をこらえながら指先に力を入れると自分の体から、嫌悪すべき乳白色の液体がほとばしる。
それは旨味たっぷりのココナッツミルクスープなんかじゃなくて本当の乳だった。
胸の張りを抑える為には、美緒に飲んで貰うのが一番なんだけど、あたしはそれが嫌なんだ。
母乳は赤ちゃんが飲んだ分だけ、また作られるらしい。
だから空っぽにしちゃうと、体は「赤ちゃんの為にまた同じ分だけ作らなきゃ」って急いで母乳を作り出す。
あたし自身は嫌で嫌でたまらないのに、だ。
あたしは別に、「母乳を作ろう」なんてこれっぽっちも思っていないのに。
自分の心と体が別々のものになっちゃったみたい。
空っぽにしても、3時間くらいするとまた胸がパンパンに張って痛くなってくる。
それはちょうど美緒がお腹が空いてくる時間と一緒だ。
美緒が産まれてからずっと、夜も昼も関係なく。
だからゆっくり寝てる暇なんてない。
美緒が寝てる間に少しでも睡眠をとっておこうと横になっても、「早く寝なくちゃ」と焦るばかりでなかなか睡魔は降りてこない。
そして眠れないと、イライラしてついスナック菓子の袋を開けてしまうんだ。
よく子育てサイトとかに書いてある「母乳育児は痩せる」なんてセリフは嘘ばっかり、って思ってたけど、考えてみれば、それだけ食べていれば太るのは当たり前だ。
眉毛のない妖怪のような顔と脂肪に包まれた醜い体。
そして乳牛のようにただひたすら乳を出す……。
それが今のあたしだ。
あたしはただ母乳を出す為だけにこの世に存在してるんじゃないか、なんだかそんなふうに思えて仕方がない……。
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