ココナッツミルクスープと世界の中心 ④

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 少し手搾りをしたところで再び搾乳器に切り替える。  暫くの間、レバーを握ったり離したりを繰り返していると、哺乳瓶の形をした透明の容器の中に乳白色の液体が溜まっていく。  でも美緒が飲んだ時みたく、すっきりするまで搾っちゃダメなんだって。  ケイさんが言っていた。   「圧抜き程度にしとかなきゃ、体は母乳が足りないと勘違いして、搾った分だけすぐまた作り出すからね」  今ならケイさんの深く沈んだ黒い瞳の意味も理解できる。  搾乳器の蓋を外すと、透明の容器の中に、本来なら美緒の血となり肉となったであろう栄養たっぷりの液体が白く揺れていた。  あたしは戸惑う事なく、それを便器の中にジャッと捨てる。  あたしは母親失格なんだろうな……。  ひと事のようにあたしはそんなふうに思った。 * この作品はフィクションです。私自身が、母乳育児や母親の存在意義に否定的な意見をもっている訳ではありません。出産や育児はデリケートな問題であり、色々とご意見はあるかと思いますが、物語の中の出来事だと思ってお読み頂けると幸いです。    
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