愛のキックは本気で痛い

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 ***  兄の亞蓮は高校一年生。中学生の時から、中学生離れした長身に加え、なかなかのマッチョ系男子だった。小学校の頃から生粋のサッカー男子であり、顔もまあまあイケメンの部類に入るとは思う。勉強はからっきしだったが、ここまで条件が揃っていればある程度女にモテるのも頷ける話だろう。社交的な性格もあり、中学の間私が認識しているだけでも三人の女子と付き合った経験があったはずである。きっとそれよりもさらに数多く可愛い女の子たちに告白され、さぞ幸せなモテ男ライフを過ごしていたことだろう。  だから、妹の私も知らなかったのである。彼が、ある悩みを抱えていたということを。それは。 『俺……実はさ、男のことも、好き、なんだよな……』  女たらしに見えた彼が、本当はバイセクシャルであったということ。  幸い、両親も私もそういったことに差別意識があるタイプではなかった。意外と身近にいたんだなそういう人、くらいの感覚である。やや真剣さは足らないかもしれないが、少なくとも亞蓮にとってはそれくらいの対応が一番有りがたかったらしかった。ただほんの少し、多数の人達よりも守備範囲が広いというだけのこと。あまり深刻に受け取って欲しくはなかったのだろう。  で、その亞蓮が。高校生になってから付き合い始めたのが、まさかの男子だった。  同じサッカー部のミッドフィールダー、飛鳥井星哉(あすかいせいや)である。いかにも細身でクールな美少年、物静かだけど口を開いたら結構毒を吐くタイプ。兄とはまさに正反対だった。亞蓮いわく“完全な一目惚れだったけど、性格もめっちゃ好みのストライクだった!”とのこと。まあ、兄とは別方向でモテそうなタイプなのは間違いないだろう。星哉も亞蓮と同じくバイセクシャルだったらしく、勇気を出して思いを伝えたら案外あっさりオーケーしてもらえて拍子抜けするほどだった、ということらしい。  兄の様子は、今まで付き合ってきた女子達のそれと比較しても真剣そのものだった。妹の目から見ても、星哉という少年にベタ惚れであるのがわかるほどに。ただし、その星哉はかなり気難しい性格であるようで――兄はちょっとしたことで星哉の地雷を踏んでは、ついうっかり怒らせるということを繰り返してしまっているらしいのだった。  そのたびに、どうすれば仲直りできるのか!を妹の私に相談してくるのである。そのたびに私がカフェで一番高いパフェを頼み、懐が痛む結果になるのは目に見えているにも関わらず。 「昨日、星哉にさ。誕生日おめでとう!って言ったんだよな、俺」  どよーん、とした空気のまま、亞蓮は言った。 「そしたら、キレられた。自分の誕生日は来月だ馬鹿野郎!って。……まあ、昨日が誕生日だと思ってたのに、プレゼント用意してなかったのも悪かったんだけどさ」 「……想像以上にフッツーの理由で喧嘩したのね、あんたら。ムッツリスケベの兄貴のことだから、ベッドでもめたりしたのかと」
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