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そのまま、疲れからか、うつらうつらとしながら時間を過ごし、気がつけば既に六時を過ぎていた。
「――ッ……!」
声にならない叫びを上げ、慌てて立ち上がると、部屋のインターフォンが鳴り響く。
――……マズい。メニュー、考えてない。
恐る恐る画面をのぞき込むと、やはり、早川の姿。
「……ご、ごめん。これから作るの」
『おう。それは良いが……俺はどうすればいい?』
一瞬迷うが、あたしのミスだ。
「……中に入って、待ってて」
そう言って、そのまま玄関のドアを開けた。
すると、早川は、あたしを見下ろし、眉を寄せる。
「早川?」
「――また今度でも良いぞ」
「え?」
「寝起きのカオしてる」
「え」
あたしは、慌てて両手で顔を押さえる。
ヤバイ!マヌケなカオしてないでしょうね!
早川は、あせるあたしを軽く抱き寄せた。
「――疲れてるのは、お前の方だろ」
「……ごめん。……気がついたら、この時間だったわ」
「じゃあ、何かテイクアウトするか。俺、行って来るぞ」
「えっ……だ、だめ!」
あたしを離すと、早川は、そう言って部屋を出ようとする。
「す、すぐにできるヤツにするから!」
こんなミスで、余計な出費はダメだ。
――それに、本当に、お腹の辺りの肉がヤバくなりそうで、引き締めなければならないのだ。
早川は、一瞬、目を丸くするが、すぐに微笑んでうなづいた。
「……わかった、わかった。あせるな」
そう言って、あたしの頭を軽く叩く。
「……子供扱いするな、バカ」
アンタに言われると、何だか、腹立たしさが倍増する。
そう思い、にらみ上げると、早川は視線をそらした。
「だから、そういう表情するなって」
言いながら、叩いていた手であたしの頭をグシャグシャにかき混ぜた。
「ちょっ……!」
「自覚が無いなら、わからせようか?」
「――っ……!」
抗議しようと口を開く寸前、軽く唇でふさがれた。
「……バカッ……!」
視線を合わせてくる早川をにらみ付けると、何故か、顔を赤くして、そらされた。
その後、冷蔵庫の食材と作り置きで、簡単に夕飯にする。
待たせるのも忍びなかったので、仕方なしに早川に支障の無い部分を手伝ってもらった。
「ご飯は冷凍してあるから、すぐにできるわ」
「ああ。――しっかし、手慣れてンのな」
感心しながら、あたしの手元を見る早川を、あたしは振り返る。
「ちょっと、包丁持ってるんだから、近づかないで」
「あ、ああ」
非常事態――ご飯の炊き忘れのために、一応、まとめて炊いて、冷凍してあるのだ。
早川は、ガタイのせいか、やはりあたしの倍くらいを食べるようなので、一応、多めに用意する事にする。
鶏の胸肉を買ってあったので、照り焼きにして、簡単にサラダを作る。
どうにか三十分はかからなかった。
――まあ、急いでいたので、少々の息切れはしたけれど。
「――お待たせ。……お礼にしては、大したものじゃないけど」
「何言ってんだ。充分だって」
既に、テーブルを拭いて、料理を並べるのを手伝っていた早川は、そう言って座る。
あたしも向かいに座ると、二人で手を合わせて食べ始めた。
ひとまず、急いでいた割には、ちゃんと作れたみたいなので一安心だ。
早川は、上機嫌で食べながら、あたしを見やる。
「……な、何よ」
「――いや、何か、夫婦みてぇ」
「バッ……!」
「嫌そうなカオするなって」
「べ、別に……そういう訳じゃ……」
すると、早川は口ごもるあたしを、微笑んで見やる。
「バカ、勘違いするだろ」
「いや、だから……」
「わかってるって」
どう言ったら正解なのかわからない。
あたしは、自分で作った夕食の味も大してわからないまま、食事を終えたのだった。
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