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 目の前にいる、ちょっと幼い印象の男は、ホッとしたように笑う。 「心配だったんで、来ちゃいました」 「――……アンタ……」  ぼう然としているあたしに、男は笑顔のまま、言った。 「奈津美の旦那の親友、(おか)将太っていいます。二人とは、中学高校、一緒のガッコでした」 「――……ああ、そう……」  どう反応していいのかわからず、あたしは、そっけなく返す。 「――で、あたしの忘れ物だか、落し物だか、持って来てくれたのよね。ありがとう。迷惑かけて悪かったわね」  そう言って、あたしは手を差し出す。  正直、もう、黒歴史と化している記憶は、早々に消したい。  けれど、その男――岡くんは、ニッコリと笑い返してくる。 「この後、時間ありますか?」 「……は?」 「ランチ、行きません?」 「――……は?」  あたしは、思い切り眉を寄せる。  まあまあヒドイ顔をしている自覚はあるが、当然だろう。  何で、あたしが。 「行きません。早く、スマホとキーケース、返して」  速攻でお断りすれば、岡くんは、ジャケットのポケットから、その二つともを出した。 「――無いと、かなり困りますよね?」 「当然でしょ」 「じゃあ、オレ、恩人てコトになりません?」 「――……はあ……?」  どういう論理だ。  確かに、困るは困る。  けれど、費用はかかるけれど、鍵は取り替えれば良いし、スマホはバックアップを取ってあるから、紛失と使用停止の手続きを取れば良い。  ――絶対、それが無いと生きていけない訳じゃない。 「あいにく、明日から仕事。もう、帰るつもりだから、時間は無い。以上」  端的に説明して、踵を返す。 「茉奈さん」 「別に、返してもらわなくても、どうにでもなるから」  あたしの返事に、言葉に詰まったようで、岡くんは黙り込んでしまう。  けれど、一瞬で顔を上げた。 「――すみません!……オレ、茉奈さんにまた会いたくて、落としたカバンから出ていたのを戻す時、持ってきちゃったんです」  あたしは、振り返り、勢いよく岡くんの腕を取ると、玄関を出た。  このままじゃ、何だか、マズい方向に話題が向かうような気がしてしまう。  母さんにバレたら、面倒臭いコト、この上無い。 「ま、茉奈さん?」 「悪いけど、事情が呑み込めない。一体、あたし、昨日、何でアンタといた訳?」  少々ドスの効いた声で、岡くんに尋ねる。  元々、声は低い方だ。  仕事でだって、活用している。  けれど、彼には通用しなかった。  ニコニコと笑い、あたしの耳元でささやくように言った。 「――昨夜、とっても、可愛いかったですよ?」  あたしは、完全にフリーズを起こしてしまった。
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