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あたしが解凍されたのは、それから数分後。
グルグルと頭の中を回る、その言葉の意味がわかるようでわからないようで――わかりたくなくて。
「茉奈さん、大丈夫ですか?」
のぞき込んでくる岡くんを、ようやくジロリと見上げた。
「アンタ、あたしのコト、脅す気?」
「まさか!事実を言っただけですよ」
まったく覚えていない事を、あれこれ言われても、にわかには信じられない。
けれど、それが事実なら――完全に穴に埋まりたい心境だ。
あたしは、大きくため息をついて、左手を出す。
「――とにかく、スマホとキーケースは返す気あるの?無かったら、さっさと帰って。手続きしないとだから」
「え、あ――……すみません……」
叱られた仔犬のように、シュンとしながら、岡くんは二つをあたしの手に乗せた。
「ありがとう。事情が何であれ、人の物を盗るのは悪い事っていう頭はあったのね」
「え、あ」
あたしは、スマホの動作を確認しながら、ひとり言のように言う。
「まあ、返さなきゃ、速攻、警察突き出すっていう選択もあったし。――でも、奈津美の友達を、そんな風にさせなくて済んで良かったわ」
そして、家に戻ろうと、彼に背を向けると、不意に後ろから力強く抱きしめられた。
「ちょっ……⁉」
「――ごめんなさい、茉奈さん」
「わ、わかったから、離してよ」
あたしは、どうにか離れようともがくが、岡くんは、そのまま、あたしの耳元で続けた。
「――オレ、中学の時、茉奈さんに会ってから――……ずっと、好きでした」
「――……は……??」
あたしは、再び、フリーズを起こしたのだった。
それから、数分――ようやく解凍されたあたしは、心配そうに様子をうかがっている岡くんを見やる。
その表情が、何かに似ているように思え、すぐに思い当たった。
……ああ、そうか。
――このコ、完全に仔犬みたいなんだ。
そう思うと、クスリ、と、笑みが浮かぶ。
「――茉奈さん……?」
のぞき込んでくる岡くんと目が合うと、あたしはすぐに顔をそらす。
「とっ……とにかく、アンタがどうであれ、あたしは、もう、忘れたいの。――昨夜、何があったかなんて、全然覚えてないんだから」
「教えましょうか?」
その瞬間、あたしは、キッと、岡くんをにらんだ。
「結構よ!」
それだけ言い捨てて、あたしは家に戻った。
すぐに鍵をかけ、ドアに背をもたれる。
――……何が、好きでした、よ。
信じられる訳ないじゃない。
あたしは首を振ると、リビングをスルーして、二階の自分の部屋に行く。
家を出た時のままの部屋のベッドは、昨日泊まる予定だったので、シーツが新しくされていた。
――……あれ?
あたしは、ベッドに座ろうとして、思い直す。
母さん、昨夜帰らなかったコト、何も言ってない。
せっかく準備していたのに、とか、ボヤきそうなものなのに。
階下に下りて、あたしは、母さんに尋ねる。
「ねえ、母さん、あたし昨夜、連絡なしに――……」
「はあ?何言ってんのよ。奈津美の友達と一緒に二次会行ったついでに、盛り上がったから泊まってくるって電話してきたでしょ」
「――……え」
それも、まったく記憶に無い。
――……あたし、ホントに、昨日一体、何が起きた……??
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