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 あたしは、ようやくたどり着いた、目の前の十五階建てのビルを見上げた。  ――オオムラ食品工業。  県内では超大手。全国でも、まあ、どこの店でも見たコトのある商品を作っている会社。レトルトやら、お菓子やら、その種類は多岐にわたる。  その経理部主任――それが、あたしだ。  毎日毎日、数字とにらめっこしているけれど、人間相手にするより、数倍楽という理由で志望した。  一応、資格があれば優先してもらえるかと思い、必要そうなものを、学生のうちに取っておいたのも良かったのかもしれない。  本社ビルは、かなり昔に建てられたものなので、来客も従業員も一緒の入り口になっているが、向かって左に来客受付がある。  自然と、四面ある自動ドアの住み分けはできていた。  正面玄関右側から入って、そのまま右手のロッカールームに向かい、自分のロッカーに荷物を入れる。  基本、ウチに制服は無いので、更衣室は無い。  貴重品は、バッグインバッグに入れているので、そのまま取り出す。  そこから出ると、受付側奥にあるエレベーターに乗り込み、約十秒。五階の隅。  大体三十畳ほどの部屋に、あたしの他には四人。 「――おはようございます」  部屋のドアを開けた時点で、全員、既に仕事を始めている。  ここは、そういうところだ。  淡々と作業をこなし、余程の事情が無ければ、定時に上がる。  ――電卓と、キーボードの音だけが響く部屋。  そこに安心感を覚えるほどには――あたしは、ここに慣れているのだ。 「おはようございます、杉崎主任」  あたしが席に着くと、隣から、高い声がこそりと響く。 「おはよう、外山(とやま)さん」  挨拶を返せば、ちょっとだけフワフワしたセミロングの髪を揺らし、微笑み返された。  外山さんは、新卒二年目。  経理部で女性はあたしと彼女だけ。  他には部長と部長代理、外山さんの一つ上――三年目が一人。  それぞれ、淡々とあたしに挨拶を返すと、すぐに自分の仕事を続ける。 「そう言えば、先週末、杉崎主任が帰られた後に、早川主任がいらっしゃいましたよ」  あたしは、机にバッグを置くと、胸側に流れてきた、一つ縛りにした黒髪を後ろに流す。背中までの髪は、節約もあって半年に一度しか切っていない。 「――ああ、放っておいて良いわよ。邪魔しに来ただけだろうから」  そして、そうぶった切ると、外山さんは、ポカンしてと見てくる。 「え?てっきり、デートのお迎えかと……」 「はあ⁉」  思いっきり叫んでしまい、他の男性陣三人の非難めいた視線に、頭を下げる。 「……外山さん……その話は後にしましょう。仕事を続けて」  あたしの叫びに圧倒されたのか、外山さんは、コクコクとうなづいた。
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