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とある冬の朝
早朝。今日は何と寒い日なのだろうか。足りない、温もりが足りない。
まだ日も差していない、薄暗い水色に染まった幹線道路沿いを歩く。店のあらゆるシャッターは閉まっており、町はまだ完全に眠りの中にいるようだ。
信号待ちをする車は白煙を上げて、コンコンと調子の悪そうなエンジンの音を町中にとどろかせる。まるで横切る者もいない信号を律儀に待つことへ、不満でも言っているかのようだ。
信号がようやく青に変わり、ノロノロと俺は歩き始めた。
朝練なんて大嫌いだ。ていうか、文芸部なのに朝練って何だよ。
しかも今冬休み。もう意味が分からん過ぎて凄い。
どうせ冬休みにやることも無い暇人もとい先輩達が、人恋しさに招集をかけているだけなんだ。全く、付き合ってやる俺のなんと心の広いことか。
まあ、俺も何もすることが無い。どうせ今日も、先輩たちの濃いオタクトークに付き合わされる一日となることだろう。そうと分かっていて、それ以外にやることが無いだなんて、俺もなかなか寂しい高校生活を送っているものだ。
「ハア……」
一人自嘲し、ため息をつく。白い煙となった吐息の向こう、早朝の町に数少ない灯りである自販機が現れた。缶コーヒーでも買っていこうかと思った矢先、その前に見知ったシルエットが立っていることに気付き、町の中でただ一人のアンニュイ気分だった身が少し引き締まる。
「箱館か」
「……」
口元までをマフラーにうずめながら、目線だけで見上げながらこちらを向いた彼女は、文芸部で唯一の同級生で、日々先輩たちのオタクトークに付き合わされている被害者仲間だ。なまじ見た目がいいだけに、俺よりも構われている量は多いかもしれない。表情がほとんど変わらないから、嫌がっているのか楽しんでいるかもわからず、半ば強制的に皆の聞き役に回らされている可哀そうな奴である。
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