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僕と君の…
ふぅ、今日も仕事が終わった。
ゆっくりと、黒色に染まった空を見上げる。
ぽつん、と銀色の輝きが黒に映える。
ちら、と腕時計を見れば、深夜11時をまわったところ。
明日も仕事だ、明後日も。
そうして、毎日代わり映えしない日々がただ過ぎていくだけだ。
そう、おもっていたのに。
最後に聞いたのは、車のブレーキ音だった。
ん、っと自分の声で目を開ける。
何度か開閉を繰り返して、視界がクリアになった。
見覚えない、白い背景。
小説なら、この後続くことばは、『薬品の匂いが鼻をつき、ここが病院だとわかった』ってとこだろう。
そして、主人公が記憶を巡らして……。
だけど、薬品の匂いは鼻をつかない。
病院でもない。
ただ、真っ白な空間に自分が横たわっているだけ。
「目が覚めた?」
そんなはずはない。
だって、2年前に………。
だけど、懐かしい声音。
振り返れば、笑う彼女。
俺が、愛してやまない彼女がいた。
「ナナコ……」
「そうだよ。あなた」
こっちに、来ちゃったんだね
死んだ妻に逢えて嬉しい、という気持ちもある。
だけど、まだ死にたくなかったという気持ちも。
複雑な気持ちが、表情にでていたのだろう。
「……まだ、あなたはこっちにくるべきじゃないわ」
彼女が淋しげに笑う。
「え?」
逢えて、嬉しかった。
「ナナコ?」
「私は、あなたに生きて欲しいから」
待ってるね。
目が覚めた。
薬品の匂い。
病院だ………。
「目が覚めましたか?」
優しい看護師の声。
ナナコ。
俺はもう少し生きてみるよ。
君が、俺を復活させてくれたから。
君から貰った命を大切にしていくよ。
ありがとう。
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