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7話 りっかとうらい
「え!? ガイくんの世界では【スキル】があるの!? いいな、いいな! 私にも使えるようになるかな?」
「どうだろうな。俺たちの世界では全員、年を重ねると【スキル】を貰うイベントがあんだよ。そこで貰えなきゃ無理だろうな~」
ガイは小さな座布団の上で腕を組んで話す。
余程、川津 海未のことが気に入ったのか、余計なことまで話し始めた。
最初は俺も何とか誤魔化そうと思っていたが、俺の話は聞く耳持たず。こうななったら、最後まで話を聞いて理解して貰うしかないと諦めた。
鳥が川のほとりを飛ぶ。
昨日より飛んでる位置が低い気がするから、夕方から雨かな~。
天気を一人予想する俺とは別にガイと川津 海未の話はどんどんヒートアップしていく。
「つまり、私もその世界に行けば【スキル】が手に入る可能性あるってこと? 行く! 今すぐ行く!! 連れてってよ」
「まぁ、俺も連れてってやりたいのは山々なんだけどよ。どうやって帰るか分かんねぇんだ。で、少しでも情報を集めるためにリキに協力してるのが現状ってんだ。なぁ、リキ!」
ガイはそう言って俺の肩に移動した。
俺とガイが行動を共にしているのは利害が一致しているからだ。
俺は【扉】から世界を守りたい。
ガイは【扉】の先の世界が知りたい。
思いは違えど目指すべき向きが近いことから【三本角の鎧】となって戦っていた。
「それもあまり上手くいってないんだけどね」
実際に戦いを目の当たりにした川津 海未が首をひねる。
「なんで? あれだけ強かったなら、【扉】から守るだけじゃなくて、先に進むことできるじゃん! さっさと攻め入ろうよ! 世の中攻撃あるのみだよ!」
「そんな簡単ならいいんだけど」
世界が違う俺達が協力することで、新たに発見したことがある。
それは【扉】が繋がる先は一つではないということだ。
俺達が倒した【大鬼】や【土鬼】はガイの世界にいなかった。
つまり、この世界とガイの世界――どちらとも違うということだ。
少なくともこの世界に繋がる異世界は3つあることになる。
いや、もしかしたら【小鬼】と【土鬼】は別の世界で、ただ、俺達が同じ世界だと分類しているだけの可能性もあるのだ。
「うーん。なるほど。良く分からないけど、わかった!」
「それは分かってないっていうんだよ。他にも問題はあるしさ」
「はっはっは。まぁいいじゃねぇの、リキ。それに【扉】を探し回ってれば、いつか【あいつ】にも会えんだろ」
「【あいつ】ねぇ……。本当にそんな人がいるのかな?」
「いるんだよ!! 【鎧】だってそいつに貰ったんだ!」
【あいつ】とは、ガイに【扉】を教えた存在らしい。ガイはその人間の言う通りにこの世界にやってきた。
そして――後ろから襲われ自分の姿を無くした。
というのが、ガイの言い分だった。
本当にそんな存在がいるのか疑問だが。
「ねえ! 二人だけで話すすめないでよ! とにかく、私たちはこれからどうすればいいの!?」
やはり、話は殆んど分かっていないのだろう。
川津 海未がさっさと話を切り上げて何をするのかと行動を急かす。
そんな時だった。 残量が一桁となったスマホが振るえた。
◇
『もしもし?』
スマホから聞こえる声に、俺は自然と背筋が伸びる。
画面に表示されている名前は、立花 芽衣。【ダンジョン防衛隊】で俺が所属していた【磯川班】含む複数の【班】を指揮する隊長だった。
そんな人から連絡とは中々珍しい。
「もしもし、どうしました? 立花さん」
『この声は敵からも逃げ出し、叱られて味方からも逃げ出した瀬名くんじゃないか。彼女にでも慰めて貰っている最中だったかな?』
「残念なことに一人ですよ」
『それもそうか。臆病者に彼女等出来る訳もない』
「というか、俺は【磯川班】から逃げ出したんじゃないですって。クビと言われたから、その指示に従ったまでです」
「それがおかしいと思うのが私だ。私の知っている君だったら、人事の権限を持たない磯川の指示を素直に聞くとは思えない」
「……」
俺は母校を破壊されたその日から、立花さんにはお世話になっている。
だからだろうか。俺の行動に違和感があることを立花さんは指摘する。【魔物】から世界を守るためならば、仲間に捨てられようがどんな手を使っても、防衛隊という手段にしがみ付くということを――彼女は知っていた。
「俺だって考えが変わることはありますよ」
「……今日はそういうことにしておいてやろう」
立花さんは、普段はクールな年上女性で比較的無口なのだが、今日の立花さんはキレキレだった。
「それで、立花さんが電話くれるなんてどうしたんですか? 叱るためなんてことはないでしょう?」
『え、勿論叱るためだか……?』
「……マジですか」
『ふ。勿論冗談だ。一々間に受けるな。本当は君にお願いしたいことがあるんだ」
「……お願いしたいこと? それは一体?」
茶目っ気が全く感じられない冗談を受け流し俺は、本題であろうお願いしたいことに付いて言及した。
『実は【蒔田班】が新たに出現した【扉】の防衛に当たってるんだが、そこの【魔物】が手強くてな。【骨蠍】って知ってるか?』
「ええ。名前だけは。確かエジプトの方で発見された【魔物】ですよね? 強さは【大鬼】と同じかそれ以上と評価されてたはず」
各国で発見された【魔物】が記されたデータの中にいた記憶がある。
確かサソリのような姿かたちをしているが、甲殻はなく骨がむき出しになった【魔物】だった。
『なんだ。逃げ出す癖にちゃんと勉強してるじゃないか。その通りだ』
「まさか、俺に行けって言うんじゃないですよね?」
『またまた正解だな。冴えているじゃないか』
「いや、それならクビになった俺に言わないで、他の班に言ってくださいよ。それこそ【磯川班】が近いじゃないですか!」
『勿論、真っ先に声を掛けたさ。でも、「俺たちだって【大鬼】を倒せたんだ。他の奴らもできんだろ。今日は休みたいんだ」というのが彼らの返答だ」
「……そんなの許されるんですか?」
『許されるわけないだろう。だが、【大鬼】を倒したことは評価しなければならない。次に備えて万全な状態で待機してもらった方がいいと考える上層部もいてな。完全に悪いと言い切れないのが現状だ」
「なるほど。でも、それなら違う班に――」
『それも勿論分かってるし、声を掛けたさ。でも、他の班も同じく乗り気じゃなくてな』
他の班が応援を拒否するほどに【骨蠍】は強敵ということだろう。
自分たちの管轄意外で現れた【扉】に対して応援に行けば、特別手当が支給されるがその額は雀の涙。
命がけとは思わないほど安い。
だからこそ、理由を付けて行かない班が多いのも暗黙のルールとして蔓延っていた。
『だからこそ、瀬名君。君なんだ。幸いなことに正式な脱隊はまだ受理されていない。つまり、君はまだ――【ダンジョン防衛隊】の一員なのだよ』
「……」
『勿論、タダとは言わない。もし、協力してくれたら、君が生活する場所を提供する。どうだ、悪くないだろう?』
俺がその日の生活に困っているのを知って、条件を出してくれる。
やれやれ。
なんやかんやと言いながらも、立花さんは常に俺を助けてくれる。
それはきっと、同じ人を尊敬しているからだろう。
俺は立花さんの提案を呑んだ。
「分かりました。それではまた連絡をお願いします」
『君が何を考えて逃げ出したか分からないが、今度は逃げ出さないように。こう見えて私は君に期待しているんだから』
電話越しでも分かる微笑みを残して立花さんは通話を切ったのだった。
「え、今の誰!? 彼女!? もー、やっぱり【ダンジョン防衛隊】はモテるんだねー」
川津 海未が電話が切れるなり声を荒げて話しかける。
電話中は黙っていたのだから、むしろ、終わるまで我慢したのを褒めるべきか。
にしても、電話に出るなり彼女。電話を切っても彼女。
やっぱり女子は恋愛が好きなんだな。
「残念ながら上司だよ。生活できる場所を提供する代わりに、【扉】の防衛を手伝って欲しいらしい。ガイは行けるか?」
「あったりめぇだろうがよ! 【扉】にも行けて、生活も出来るなんて願ってもねぇことじゃんか。そうと決まればさっさと行こうぜ!」
「そうだね」
ここから最も早い移動手段は新幹線か。
向こうに付いたら立花さんに迎えをお願いしよう。
少ない荷物を全てポケットに入れ【扉】にへと向かうのだった。
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