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たわいない話をしながらドライブを楽しむこと二時間。
ついたのは隣県にある有名な温泉街。
深い緑に囲まれた川沿いに時代を感じさせる木造の旅館や伸び上がるホテルが立ち並ぶ。ところどころで温泉の蒸気が白く立ち昇っている。
「宿は中心街から少し離れた場所で……もう少し山の上の方です」
車窓を流れる観光客と立ち並ぶ旅館を見るとちょっとテンションが上がる。
(旅行に来たって感じ!)
「週末だからお客さんも多いんですね」
「結構人気がある地域ですからね。中心街はビジネスホテルっぽい旅館もあるみたいで家族連れも多く見かけますよ」
「へぇ、何回か来たことがあるんですか?」
透子の質問になぜかほんの少しの間を置いて続ける。気にはなったがなんとなく触れてはいけない気がした。
「――今日の宿は離れが自慢の旅館です」
「離れですか! そんなところ泊ったことない」
「地元の食材を使った料理と温泉を引いた部屋風呂が自慢の宿ですよ。貸切露天風呂なんて豪華ですよね」
観光客の流れに合わせてゆっくりと徐行しながら山を登っていく。
(……ってことは二人で入ったりするの?)
貸し切りと聞いてこれからの展開を想像して頬がほてった。気取られないように車窓の景色に目を移す。
恭平さんは前を向いたまま。どんな顔をしているのかまともに見れない。
「ほら、もう着きましたよ」
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