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※
初めての環境と慣れない作業は思ったより疲れた。
ワインも料理もおいしかったが世話好き女子をアピールする姿を思い出すとどっと疲れが湧いてくる。
(ほんっと若いっていいなぁ……)
「――広瀬さん」
げんなりと肩を落としてエレベーターの到着を待つ背中を呼び止める声。
忘れ物でもしたかと振り返ると肩からトートバッグを下げた里見が近づいてくるのが見えた。しかも傍らにはぴったりと妙齢な女性が二人。
ずいぶんと積極的なお嬢さんに気に入られてしまったらしい。
(若気の至りね。男は見た目じゃないのよ)
透子は老婆心で言いかけて呑み込んだ。
「広瀬さんも一緒にいかがですか?」
にこやかな笑顔で告げるのは全くその気のない社交辞令。
場所を移して茶話会をやろうという話になっているらしい。つまり第二ラウンド。嵐の予感しかないのでさすがに遠慮したい。
「ああ、えーっと……予定があって」
「残念。お茶でもと思ったんですけど、予定があるのなら仕方ないですね」
「せっかくのお誘いしたのに、残念ですね」
ぱっと顔を輝かせお互いの顔を見合わせて嬉しそうに言葉を交わすが、その目は露骨にお互いを牽制しあっている。
(……それに巻き込まれたくないのよ)
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