きっかけは甘い声……?

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「ちょっと、放してください」 「まだ演技してなきゃダメですよ。彼女たちに見られているかもしれません」  そんなわけがないと言いたかったが、強引なペースにかき乱される。 「ちょっ、里見さん――!」 「あ、僕のことを呼ぶんなら恭平でお願いします。サトミって女の人の名前みたいでトラウマなんです」  里見とサトミ。確かに紛らわしい。 「くだらないお芝居につき合わせたお礼をさせてください。迷惑をかけたのにお礼の一つもしないって社会人としてダメでしょう?」  こちらは木枯らし吹き荒れる三十路。冷たい心の風穴(かざあな)を埋めるような笑顔ににあっさり屈した。 「――おごってくれますか?」 「だったら、デートしてくれませんか?」  少し強引な誘いだが悪い気はしなかった。アルコールで理性のタガが緩んでいたのかもしれない。  頬を寄せ合う男女に紛れて藍の色に滲む夜景を楽しんだ。  落ち着く場所に選んだのは全国チェーンの居酒屋。静かな店よりこういう賑やかな店の方が居心地がいい。  開いた席に滑り込んで注文したのは唐揚げとビール。透子はすかさずレモン酎ハイに修正して、おしぼりで手をぬぐう。
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