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「広……透子さんこそ、そういうお相手がいらっしゃるんでしょう? 不満がにじみ出たような顔してましたよ」
「そんなにひどい顔でしたか?」
「ええ、目なんてこーんな感じでつり上がってました」
笑って恭平は人差し指で自分の目じりを吊り上げて見せる。
「やだ、そんなヒドい顔してませんって」
どうやら心の声が表情にまで現れていたらしい。誤魔化すように唐揚げの最後の一個を取り上げて口を尖らせた。
「誰かいたら婚活料理教室なんかに行きませんよ」
「じゃあ、酔った勢いのアヤマチもアリですね」
ぽとり。
箸から落ちた唐揚げがテーブルに転がった。
「は?」
手を伸ばしてテーブルの上に転がった唐揚げを摘まみ上げると、ぱくりと頬張った。したり顔で唐揚げをかみ砕く。
「もしかして揶揄われてるんでしょうか?」
「そう見えます?」
きっとアルコールと居酒屋の雰囲気で思考が麻痺していたのだろう。
そうでなければ――透子の跳ね上がった鼓動に冷や水を浴びせたのは震えた携帯電話。
「……残念。魔法が解ける時間ですか」
慌てて取り上げると所在を確認するメール。相手は――母。
それは三十路のシンデレラの早すぎる門限を告げるもの。
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