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まいごのまいごの落とし物
シンデレラの魔法がとけるのは十二時。
冴えない三十路シンデレラの門限は午後十時。
あれから一日を挟んで険しい顔の透子がいるのは事務所のパソコンの前。
今朝も無事に朝の発注ラッシュが終了したところである。
「ちょっと透子さん……眉間。ヤバいです。なにかあったんですか?」
どっかりと向かい側の席におさまって片手で眉間を指し示す。
コーヒーの入ったマグカップを手ににっこり笑うのはナイスバディのミナちゃん。
(羨ましいくらいお肌もつやつやで、ぴっちぴちの二十四歳)
小さくため息を落として目をつぶって眉間の皺を伸ばすようにもみほぐす。
間違えないように毎日神経をすり減らす作業から解放されて一息ついた。
「もしかして彼氏とサヨナラしちゃったとか?」
にんまり笑って爆弾を投げつけて来る。
彼女は男女問わずに好かれる明るい性格で中学生のころから彼氏がとぎれたことがないという。恋愛スキルは透子をはるかに追い越して無敵レベル。
「そんな相手いないわよ」
ミナちゃんの本日のファッションは冬にしてはちょっと露出の多いワンピース。しかも足は紺色のソックスのみ。
「パンツ、見えちゃうわよ」とババ臭くつぶやいて時計をにらんだ。
時刻はちょうど早番の休憩タイム。
「ご心配なく。今日も仕事帰りにお城へデートの予定ですから」
「お盛んで羨ましい限りだわ。こっちは寂しい独り身なのに」
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