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お付き合いしても次のステップに踏み出せないまま――三十路に突入。
守っているわけではないけれど、この身を捧げる相手もいない。
「落とした携帯ってGPSで位置情報を確認できるらしいですよ」
「とっくに試したけど。アウト。……たぶん電池切れね」
携帯を最後に確認したのは恭平さんと行った居酒屋。帰宅を促す母のメールがとどめを刺したらしい。あれでいい感じのムードもぶち壊れた。
「携帯ですよ!? なかったら死んじゃいますっ」
ミナちゃんが目を剥いて吼えた。死にはしないが、非常に困るのは確か。
「一桁だったけど帰って充電すればいいかなって……」
「ちょっと、透子さん。婚活料理教室に行ったんでしょ? 早い話、合コンですよね、あれ。お金を出して相手の連絡先をゲットしに行くものでしょ?」
「いや、母に勝手に申し込まれて……」
行く気などなかったという言葉は悲鳴のような声に封じられた。
「まさか手近な店長で手を打つ気じゃないですよね?」
店長はこの職場で唯一の独身男性。趣味は海外旅行という四十代後半。
お金と脂肪に恵まれたちょい太めのクマさん。優しそうな見た目だが人使いは鬼のように荒い。
「――ない」
「でしょ? さっさといい男を捕まえないとこの店を差し出されてプロポーズされちゃうかもしれませんよ」
「馬車馬みたいにこき使われる永久就職なんてお断りよ」
「だったらまじめに婚活しなきゃ。よかったら友達を紹介しましょうか?」
「それは……後ろ向きに善処します」
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