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今も聞きたくもないのに耳は艶っぽい声を拾ってしまって動揺している。
だいたい新居は電車で三駅なのだから里帰りしなくてもいいのではないかと思うのだが、両親の初孫への期待と三食昼寝付きの好待遇にどっかりと居座っている。
(……私が悪いんじゃないからね!)
そう自分に言い聞かせてリビングのドアを押し開けた。
「……は?」
それは予想とは、違った。
ソファーに座った千賀の足元に寛人が大きな体を丸めて窮屈そうに座っている。もちろん致しているのではない――ただのマッサージ中。
「な……なに、やってんのよ!」
ほっとすると胸をなでおろすより苛立ちの文句が口を突いて出た。
「ヤダ、なに怒ってんのよ透子。ただのマッサージよ。夕方になると足がむくんじゃって大変なの。もしかして変な想像してたんじゃないでしょうね?」
新婚気分の抜けきれない二人の甘い声にそういう想像をするなという方が難しいのではないだろうか。
(ドキドキして損した!)
「紛らわしい声を出すのが悪いんでしょ!」
「やだ、もしかして欲求不満?」
じっとり千賀をにらんでダイレクトメールを乱暴にテーブルに置いた。
三十路を爆走中の乙女の恥じらいを考慮してもらいたい。
(もう……疲れた)
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