正しいアヤマチのいたしかた

きっかけは甘い声……？

「フランス料理というと少し難しいもののように感じるかもしれませんが、そんなことはありません。実は素材を焼いたり煮込んだりと調理法は至ってシンプルなものが多いんです。コース料理もざっくり言うと、前菜、メイン、デザートの三つの基本を押さえておけば大丈夫です。今日は素敵なパートナーと一緒にクリスマスディナーを楽しむことを目標に頑張りましょう」
　笑顔で課された山より高い目標にげんなりと肩を落とした。
「今日は初心者でも失敗しないビシソワーズとクリスマスカラーの鶏ひき肉のテリーヌを作っていきたいと思います」
　手順を説明しながら手本を披露する。流れるような手つきに動画をおさめるお姉さまもうっとりと眺めている。
「テリーヌって人の名前みたい」
「面白いことを言うんですね。家庭料理で肉や野菜を四角い容器に入れて調理した料理で容器の名前をそのまま料理の名前にしちゃったそうです」
　要するにあのステンレスでできた四角い箱を――テリーヌというらしい。
　見上げると隣に立った里見が自然な笑顔で教えてくれる。　
「結構、適当な名前の付け方なんですね」
「難解なメニューも実は食材と調理法を書いてあるだけのものも多いですからね。名前ではポトフも火にかけた鍋って意味ですし、ラタトゥイユも見た目そのまんまのかき混ぜたごった煮っていう意味らしいですよ」
　言われてみればラタトゥイユは確かにトマトやズッキーニなどたくさんの野菜を混ぜ合わせたような料理だ。