正しいアヤマチのいたしかた

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 黄土色の筑地塀、大きな丸太を利用した看板には――旅館・四季。  建物は木材をふんだんに使った趣のある白木造りの日本建築の宿だ。  風格のあるいぶし銀の色の屋根瓦。日陰には溶けきれない雪。  こんもりとした緑に覆われた敷地は広くどこまでだか分からない。  駐車場に車を停めると受付のある母屋の門をくぐった。  木材をふんだんに使った明るく開放的なロビー、柔らかく照らすオレンジの提灯を模した照明が印象的。  揃ってチェックインを済ませると、上品な着物の仲居さんの案内で宿泊する離れへと案内してくれる。  冬枯れの木立を貫く小道を並んで歩く。遠くから野鳥の声が聞こえる。 「自然の中のお宿って感じですね」 「この山の半分が宿の敷地になります。一番奥まったお部屋ですと遠いのでお車でご案内するんですよ」 (どぇぇー、私が泊るなんて場違いな……)  内心びくびくしながら歩くこと三分。宿泊する部屋に到着した。  趣のある離れの名前は――水無月。 「ご用向きはこちらの内線電話でご連絡くださいませ」  二人分の荷物を置いて丁寧に頭を下げて仲居さんは襖を閉めた。  畳の香りのする和室。その奥には洋間が続いて綺麗に整えられたベッドが二つ。大きな窓の向こうには遠く白い雪をかぶった山が青く見える。
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