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「ないんですか?」
池田先輩のセリフに、成瀬くんが被せてくる。それにまた、池田先輩が応える。
「え。だって、家族で行くとこじゃないし、機会がなくて」
「普通に行きますよ」
「てか、学校から徒歩1分の場所にあるのに、この一年、池田さんは何してたの」
「いや、女子があの店でおしゃべりに盛り上がってたら場違いだよ」
「そういや、そうですね」
「じゃ、今日はとにかく食べに行こう」
「家で夕食用意してるんだけど」
「吉牛はオヤツですよ」
私には話を振られず、視線さえ向けられず、三人だけで盛り上がっている。もちろん、私が声を掛けいないから話題に入れないのだ。こんなテンポの良い応酬に口を挟む技量など私にはない。
ただ、話題に入れない人間を追いやるような事態を好まず、意識して全員が参加できる場を作ってきた荒川先輩には珍しい。
何らかの意図を感じつつ、その詳細がわからないため掛けるべき言葉がわからず、私はやはり、黙って見守った。
ただやはり、不満が視線にこもってしまった自覚はある。
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